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◆声から考える日本語
音声は言語の基盤にあるものとして、これまでも音声学と音韻論の枠組みの中で多様な研究が積み重ねられてきた。近年では、情報工学や人工知能の発展により、音声の扱い方や分析の視点が一層豊かになり、従来の実験音響音声学の範囲には留まらない、新たな段階へと進みつつある。本特集では、近年一気に増えてきた音声コーパスの構築や分析方法から始まり、話者情報の抽出、非流暢な発話の扱い、方言音声の合成、日本語の音声史など、さまざまな切り口から音声研究をめぐる最新の動向を紹介する。YouTube から得られた膨大な音声資料を自由に使いこなせる時代が今まさに来ているのである。
○情報工学から見た新しい音声研究とコーパス 高道慎之介
○濁音の音象徴について考える 熊谷学而
○音声コーパスから探る日本語アクセントのゆらぎ 那須昭夫
○打ち言葉と話題の結束性 宮嵜由美
――メールコーパス、LINE コーパスの用例から――
○非流暢な音声合成の問題点 モクタリ明子
○【コラム】音声を使うAI 近藤泰弘
九州地域における動詞終止形・連体形末の
○音声変異について 佐藤久美子
――日本語諸方言コーパス(COJADS)を活用した方言音声研究の可能性――
○池間方言のアクセント 五十嵐陽介
――余剰的特徴との峻別の観点から――
○日本におけるデジタル音声処理と言語学の課題 坂井美日
――日本列島の多様な言語・方言の声を置いていかないために――
○意外に難しい日本語の発音とその指導法 劉羅麟
――中国語を母語とする日本語学習者を例として――
○弱化としてのハ行音の変化 高山知明
――母音間・語頭の違いとオノマトペアの摩擦音化――
◆フィラーの働き
「えーと」や「あのー」などのフィラーは、無駄な言葉のようにも見られ、日本語学の研究対象になるのは遅かった。しかし、一九八〇年代から談話研究が進展すると、フィラーは、話し手の思考を整えたり、聞き手への配慮を示したり、コミュニケーションを円滑にしたりする、実は大切な役割を果たしていることがわかってきた。
さらに、二〇〇〇年代から話し言葉コーパスが整備されるようになると、そのフィラーデータの精細な分析を通して、話し手の属性や発話スタイルなどに応じた種々の特徴があることなど、フィラーの多様性も解明されてきた。
また、子どもの言語発達や、日本語学習者の習得段階によっても、使われるフィラーの種類や用法が異なっていることなども発見されており、そうした知見の蓄積を日本語の教育に生かす工夫も求められている。
本小特集では、日本語研究の重要テーマに成長してきたフィラー研究を導いている三人の研究者に寄稿してもらった。日本語のフィラーの不思議な世界に、読者にも分け入っていただきたい。
◯フィラーとコミュニケーション 定延利之
○フィラー研究のこれまでとこれから 丸山岳彦
○感動詞としてとらえるフィラー 小西円
――「えー」と「えっ」の違いを意識する――
【連載】
[ことばのことばかり]やばい変化? はんざわかんいち
[方言ほぐし糸]東北方言の成立過程を九州で追う 小林隆
[二次元世界のはなしかた]キャラクターと共感(その一)――『国宝』に見る「成長」の物語―― 金水敏
[日本語で生きる子どもたち]「想いは同じ」 池上摩希子
[にほんごの航海灯]二〇二四年度日本語学会論文賞 小原真佳
[新刊クローズアップ]『一般言語学から見た日本語の音韻構造』 窪薗晴夫
[高等学校国語のカリキュラムの可能性] 授業実践から考えるカリキュラム・マネジメント――「問い作り」の授業を一例に―― 小川貴也
[虎の門通信]教育課程企画特別部会における論点整理について 上月さやこ
[新刊・寸感]『理想の辞書を求めて―学習者にほんとうに役立つ辞書とは』ほか 横山詔一
情報源/次号予告