日本語学2025年秋号(特集:「「日本語教育の参照枠」のインパクト」「韻文をどう書くか」)vol.44-3

甲斐睦朗 監修, 荻野綱男 監修, 近藤泰弘 監修

3,410円(税込)

明治書院

◆「日本語教育の参照枠」のインパクト
 二〇二一年一〇月、文化審議会国語分科会は「日本語教育の参照枠」を発表した。その報告書によれば、日本語教育の参照枠とは「国内外における日本語学習者の日本語の習得段階に応じて求められる日本語教育の内容及び方法を明らかにし、外国人等が適切な日本語教育を受けられるようにするため、学習、教授、評価に係る日本語教育の包括的な枠組みを示すもの」である。その後、活用の手引の刊行、「日本語教育の参照枠」を活用した教育モデル開発・普及事業の実施といった、「日本語教育の参照枠」を普及するための各種の取組が続き、現在は認定日本語教育機関や登録日本語教員養成機関の教育課程に大きな影響を与えている。
 では、この「日本語教育の参照枠」とは一体何なのか。今特集では、国内外の日本語教育を大きく変えつつあるこの枠組みに焦点を当て、参照枠の本質的な理解を試みるとともに、現段階でどう具体化されているのかを知り、日本語や日本語教育、さらには外国語教育や国語教育に関わる人々が「日本語教育の参照枠」を身近なものとして捉えられるようになることを目指す。

◯「日本語教育の参照枠」とは何か 松岡洋子 
 ――わたしたちは何をどのように「参照」できるのか――
◯「日本語教育の参照枠」における言語教育観 真嶋潤子 
 ――「活力ある共生社会」の構築に資する日本語教育の考え方――
◯「日本語教育の参照枠 報告」におけるCan do 松井孝浩 
◯「日本語教育の参照枠」における評価 島田めぐみ 
 ――理念と現実の狭間で――
◯参照枠と「仲介」   島田徳子 
 ――日本語教育における「仲介」の意義と今後の可能性――
◯Can-doモデル(留学分野)の構築 山本弘子 
 ――多様性を活かすモデル作成への挑戦――
◯「日本語教育の参照枠」による就労分野の日本語教育へのインパクト
 ――カリキュラム開発から企業との連携へ――   長山和夫・平山智之 

◯生活のための日本語を学ぶカリキュラムのこれから 金田智子
 ――「日本語教育の参照枠」を生かす――

◆韻文をどう書くか 詩歌の語と表記
 韻文は、表現をする際に韻律の制約を受ける。そのため、通常の表記では表しきれない意味やニュアンスまで表出することを目的とし、視覚的な情報を通して読者の感覚に訴える技巧が表記の面において現れやすい。
 和歌では、上代において万葉仮名に独自の漢字選択が行われ、また平安朝以降は掛詞には仮名表記が行われ、また改行や文字の配置の方法などに規定が生じていった。連歌においては、独自性の高い漢字も用いられるとさえ意識されるに至った。
 短歌や俳句においてもそれぞれに独特な表記が振り仮名なしでも多用されてきた。それが評価されることもあれば、批判を受けることもある。歌謡曲の歌詞と同様に、いわゆる二重表記が流行する時期もあった。
 このような韻文の表記にまつわる種々の現象には、小説や漫画における表記と重なる点があるが、特色としてどのような違いを見いだせるのだろうか。また、そこにはいかなる問題があり、その反面、どのような効果が確かめられるのか。こうした点について考えるために過去から振り返ってみる。

◯「もとくさ」考                宮本淳子
 ――持明院入木道伝書に見る和歌の書式と表記――
◯【コラム】詩と表記の冒険 蜂飼耳 
◯俳句に見られる独特の表記 甲斐睦朗 
○歌詞における表記の創造性    胡佳芮
 ――二重表記の展開を中心に――

【連載】
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[二次元世界のはなしかた]キャラクターのモデルから見た霊的事象の分類(その二) 金水敏 
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情報源/次号予告