日本語学2025年夏号(特集:「SNSで飛び交う日本語」「法のことば」)vol.44-2

甲斐睦朗 監修, 荻野綱男 監修, 近藤泰弘 監修

3,410円(税込)

明治書院

◆SNSで飛び交う日本語
 日常生活において、身近な情報を文字でやりとりするメディアの中心が手紙からメールに移ったときに、日本語の表現にも「打ち言葉」が増加するなどさまざまな変化が生じた。近年、より手軽な情報交換のメディアとして、日本ではLINEが急速に普及した。そこでは音声はほとんど用いられず、従来見られなかった視覚に頼った言語表現が産み出され、日々大量にやりとりされている。文字コードの制約を受ける環境でありながら直接言語を表記しないスタンプも一般化しつつある。その他の様々なSNSにおいても新しい現象が現れている。
 そうした空間では、一対一の通信から多対多のやりとりまで行われており、社会集団による種々の傾向も見出すことができる。「おぢさん構文」や「マルハラ」などと呼ばれる意識まで現れたことが報道されており、そうした文体や表記などにより感情面などでのミスコミュニケーションやその遊戯的な模倣、そしてそれらを回避するための書記行動の変化まで生じている。
 これらの多様な言語事象に関して、現状と背景そして将来について検討していく。

◯日本語でのソーシャルメディアの使われ方 吉田光男 
◯「打ちことば」の特質 落合哉人 
 ――分類と実態の解明――
◯SNSにおける新たな文字表現 尾山慎 
◯LINEにおける特徴的な表現 宮嵜由美 
 ――携帯メールからLINEへ――
◯SNSにおけるなりすましの表現 中島紀子 
◯日本語教育でSNSを使用する際に留意すべきこと 中西久実子 
◯SNSからみる日中の社会文化的コミュニケーションの実践 儲叶明 
 ――WeChatとLINEの文字チャットを事例に――

◆法のことば
 法の分野では、ここ二〇年余りで、裁判員制度の定着に伴う法廷のコミュニケーションの可視化や、六法の口語体化など、市民に開かれた法の理念を目指した言語改革が、実を結んできている。人間社会には、利害や意見の対立がつきものだから、法に基づく裁判で白黒を付けたり、法律家の助けを得ながら調停を通して和解したりすることは、きわめて重要な社会的営みである。当事者の人生を左右する裁判や調停の現場での言語運用を観察し分析してみると、そこは、人間にとってことばとは何かという、本質的問題を考える材料に満ちていることに、気付かされることになる。
 本小特集では、まず、裁判における判決文の平易化の歴史を、多くの法律家たちの具体的な工夫の分析を通して浮かび上がらせる。そして、離婚や相続をめぐる調停に参加する、法律家や当事者の談話ストラテジーを観察し、それが調停の進行にどのような影響を与えるかを明らかにする。さらに、文学模擬裁判を国語科の教育に取り入れた多くの実践例を報告し、法教育が国語教育に大きな効果をもたらす真実を解き明かす。

◯判決文はやさしくなり得るか 永澤済
 ――日常と非日常の間で――
◯家事調停における言語運用の実務的考察 大河原眞美 
◯法教育で国語科教育をつくり直す 札埜和男 
 ――傍流からの企て――

【連載】
[方言ほぐし糸]方言は古語より出でて古語より古し 小林隆 
[二次元世界のはなしかた]キャラクターのモデルから見た霊的事象の分類 金水敏 
[日本語で生きる子どもたち]「一番、難しいのは…」 池上摩希子 
[にほんごの航海灯]第三回中高生日本語研究コンテスト 山東功 
[新刊クローズアップ]『ヘイトスピーチの何が問題なのか 言語哲学と法哲学の観点から』 本多康作
[ことばのことばかり]当た棒よ! はんざわかんいち 
[高等学校国語のカリキュラムの可能性]国語が支える探究 探究が支える国語 
 ――高校国語の出口としてのデジタル・シティズンシップ――  笠原諭 
[虎の門通信]「我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~(答申)」について 上月さやこ 
[新刊・寸感]『論理的思考とは何か』ほか 相澤正夫

次号予告