柳沢吉保――教科書が教えない元禄政治の実像

江宮隆之

780円(税込)

Panda Publishing

時代劇ではいつも、「将軍・綱吉に取り入り、善良な人々を苦しめる悪徳大名」とされてきた側用人・柳沢吉保。

しかし彼は本当に悪い政治家だったのか? 本書はこの疑問を検証する。

それと同時に、5代将軍・徳川綱吉や当時の元禄時代についても再検証する。

教科書では、愚かな将軍・綱吉は犬に異常に執着して「生類憐れみの令」をつくり、民衆を苦しめたという。

これも果たして本当のことだったのだろうか。

綱吉の元禄時代とはまさに「経済の転換期」であった。
武士は軍人から官僚への変身を求められ、さまざまな権力の争いが行なわれていた。

その構造を理解することで、「なぜ柳沢吉保の悪名はでっち上げられたのか」が見えてくる。

【目次】
はじめに 柳沢吉保は本当に悪人だったのか

第一章 吉保と綱吉
綱吉と出会う/『松蔭日記』からひもとく出世物語/柳沢一族のルーツは武田家/吉保誕生/ 将軍継承外の綱吉/運命の初対面/祖先武田家の恩/仏教への信心目覚める/実母の存在を知る/棚ぼた将軍誕生/吉保の出世物語スタート

第二章 将軍綱吉の実態
厳しい制裁/周囲を恐れさせる執念深さ/学者将軍の善政/嫡男、徳松の死/大老堀田正俊刺殺の謎/側用人時代の到来

第三章 生類憐みの令の真実
エスカレートする生類憐みの令/生類憐れみの令の目的/五万人が処罰の真実/恐るべし活字文化/吉保と生類憐れみの令

第四章 吉保を巡る謎
長男・吉里は綱吉の隠し子か?/能力がなくても出世できたのか?/元禄バブル崩壊で求められる人材/綱吉は無能な将軍か?/寵愛を受けたの吉保だけ?/吉保は単なるごますり?/大抜擢されたのは吉保だけ?/賄賂の権化の素顔は?/お成りの目的は?/黄門様とは犬猿の仲?

第五章 吉保の真の実力
川越城主に/武蔵野の原野を農地に/荻生徂徠の登用/書物に残される吉保像/名君としての吉保/吉保と六義園/貨幣改鋳への誤解/黄門様も認める皇陵修理/柳沢邸での御前裁判/難事業をこなして大老格へ/頭の器量で女性を選ぶ/武田家存続に貢献

第六章 忠臣蔵の人々
即日切腹命令の真相/フィクションとは違う人物像/仇討ちへ追い込まれる/赤穂浪士の処遇を巡って/打首から切腹へ変更/ねじ曲げられた忠臣蔵

第七章 負け組の悲願、甲府城主に
松平の称号を授かる/賄賂禁止を願い出る/朝廷との友好関係/後継問題を取りまとめる/甲斐国を譲り受ける/甲府城主に/甲府城、城下町を整備/甲州八珍果を選定/甲斐八景による甲州振興

第八章 将軍綱吉の死
綱吉への三つのお願い/相次ぐ天災/綱吉病床に/綱吉薨去直後の隠居願い/「生類憐みの令」のその後

第九章 柳沢一族の繁栄
吉保隠居/将軍家宣、薨去/吉保逝去/甲府城主、吉里の善政/大和郡山への転封命令/大和郡山を金魚の産地に/繁栄する柳沢家の人々/なぜ吉保は悪役になったのか

おわりに 三百年の無実の鬼、柳沢吉保

【著者略歴】
江宮隆之(えみや・たかゆき)
一九四八年山梨県生まれ。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞社入社、編制局長・論説委員長などを経てフリーに。一九八九年、『経清記』(新人物往来社)で第十三回歴史文学賞、一九九五年、『白磁の人』(河出書房新社)で第八回中村星湖文学賞を受賞。