日本語学2023年夏号(特集:「辞書を編む・辞書を引く」「人名の読み方」)vol.42-2

甲斐睦朗 監修, 荻野綱男 監修, 近藤泰弘 監修

3,410円(税込)

明治書院

◆辞書を編む・辞書を引く

 様様な日本語研究に関する辞書・辞典を編纂する側、利用する側から、その内容を紹介する形で、現在の日本語研究の動向にまで説き及ぶ。
 現代の日本で用いられている語や文字は、古典籍に見られる用例に遡ることで語義・字義や用法などに関する理解が深まることがある。辞書はそうした過去の文献に基づいて編纂されるものであるため、そこには多くの情報が採集整理されて収められている。古語の辞書はそういう意味で、日本語研究の宝庫である。今回の特集では、特徴ある古語研究分野の辞書をとりあげた。
 また辞書を編纂する立場は、また、利用者とは異なった視点がいろいろとある。通常の現代語の辞書以外にも各種の辞書が存在するが、その編纂者から見た日本語もまた興味深い。
 本特集では、辞書について、以上の「編む」「引く」の両面から改めて考えてみたい。

〈編む〉
◯オノマトペ辞典の特質 小野正弘
◯現古辞典とその周辺 鈴木泰
 ――詞葉新雅、現代語訳、現古対照文法――
◯辞書を編む 柏野和佳子
 ――現代語の辞書と用例の問題――
◯琉球諸語の辞書の編纂方法 中川奈津子
◯コンピュータが用いる形態素解析用辞書UniDic 近藤明日子
◯『倭名類聚抄』と『本草和名』 武倩
 ――漢籍からの引用に着目して――
〈引く〉
◯色葉字類抄の語彙の性格 藤本灯
◯『名語記』を読む 小林雄一
◯近世方言書生成の現場 米谷隆史
 ――米沢と熊本の武士による編述書二点から――
◯英華字典・華英字典と日本語研究 陳力衛
 ――データベースを生かして――

◆人名の読み方

 先日、全国民の戸籍において、初めて氏名に読み仮名が付される政策が公表された。そこには、漢字の一般的な字音・字訓のほか、辞書にしか見られないような字音・字訓、さらにはそれらの一部分(部分音訓)、連声の類を含む熟語の読みから切り出した読み、そして新たな熟字訓が現れる。
 審議会などでの議論から、過去から受け継がれた名乗り訓(「和」(かず)「朝」(とも)の類)、近年頻出し始めた名乗り音(「絢」をジュンと読む類)、名乗り専用の熟字訓(「陽葵」(ひまり)の類)も、読み方に十分な定位が必要であることがうかがえる。
 姓名の読み方に対して国が規制を設けるべきかという議論もある。ただし、昨今の新作とおぼしいものでも、実は古来の読み方もあり、また新規のものでも見るうちに慣れ、見掛けなければ奇異に感じるといった意識も一般に広く観察される。
 名の読み方とは、どういう性質のものであり、キラキラネームと呼ばれる名前を含め、その実情と背景にあるものは何か。しっかりと捕捉し、今後について考える特集としたい。

◯漢字の読みの性質と、名前の読み 近藤泰弘
◯日本における命名文化とその読み仮名 笹原宏之
 ――「愛」を中心に――
◯人名の読み方とその不確定性:実証研究の概観 荻原祐二
◯戸籍名の読み方は単一的・固定的であったか 三浦直人
 ――明治から昭和戦前期における〈名の読みの複数性〉――

【連載】
[日本語が消滅する時]山口仲美
[エッセイ 社会と心に向かう言葉学]荻野綱男・宇佐美まゆみ・菅井三実
[国語の授業づくり]髙木展郎
[ことばのことばかり]はんざわかんいち