日本語学2022年秋号(特集:「日本語の語用論」「コロナが変えた日本語」)vol.41-3

甲斐睦朗 監修, 荻野綱男 監修, 近藤泰弘 監修

3,410円(税込)

明治書院

◆「日本語の語用論」

 近年の言語学で発展が目覚ましい語用論は、日本語学の中では、その位置付けが明確になっていないところがある。しかしながら、日本語学における、敬語論、文法論、意味論、文章・談話論などで研究されてきた内容は、語用論で焦点となっているところと重なるところも大きいように思われる。日本語学でこれまで明らかにされてきたことを、語用論の概念を用いて説明することで、日本語のしくみが、より明確になることがあるのではないだろうか。また、語用論の体系に、日本語の諸現象をあてはめて整理したり分析したりすることで、これまで見えていなかった日本語の特徴が見えることもあるのではないだろうか。本特集は、語用論の基本的な考え方を紹介するとともに、その考え方を意識しながら日本語を研究した新しい論考群を提示するものである。

◯日本語研究のための語用論 加藤重広
 ――語用論は日本語研究にどう寄与するか――
◯日本語テクストの意味解釈と語用論 澤田淳
◯日本語の敬語と語用論 滝浦真人
 ――敬語の語用論はタメ語の語用論――
◯日本語の文法と語用論 山岡政紀
 ――モダリティから発話機能へ――
◯日本語の意味と語用論 鍋島弘治朗
 ――認知言語学の立場から――
◯日本語の文章・談話と語用論 宮澤太聡
 ――文章・談話論と演繹的文脈論の「文脈」と「単位」の照合――
◯語用論と日本語史研究 青木博史
 ――「評価的意味」をめぐって――
◯指示のしくみと指示詞の意味 平田未季
◯言語発達研究と語用論 松井智子
◯語用論から批判的談話研究へ 名嶋義直
 ――日常言語の分析を通して談話主体の持つ権力性・政治性を可視化する社会的実践――

◆「コロナが変えた日本語」

 「コロナ」は2年前まではさほど使われない多義語であったが、2020年からは新型コロナウイルスやそれによる感染症(COVID-19)を指す用法が広まった。感染予防のために「エアロゾル」が意識され、「三密」「飛沫」を避け、「人流」を抑え、「黙食」「新しい生活様式」が推奨されるようになった。
 マスクは「不織布」が効果的であることが常識化し、仕事も講義は「リモート」化が進み、Zoomなどのアプリの使用が急増した。そのため、「オンライン講義」に対して「対面講義」というレトロニムが一気に定着した。ことばによるやりとり、コミュニケーションも、会話よりも画面上の文字によるものに重心が移るなど、種々の変容を生じてきた。「重症」のように一般に正しく理解されていない専門用語や一部の行政用語も浮き彫りとなった。
 コロナ禍によって生活が一変した状況下に入って2年を経た今、コロナが変えた日本語の姿、そしてコミュニケーションの在り方について、同時代の記録を残し、その背景を探っておきたい。

◯「3密を守ろう」とは? 新野直哉
◯「新型コロナ」と医学用語の変化 西嶋佑太郎
◯「ウイルス」と放送用語 塩田雄大
◯「コロナ時代語」を記録する 飯間浩明
 ――街のことばを中心に――

【連載】
[日本語が消滅する時]山口仲美
[エッセイ 社会と心に向かう言葉学]井上史雄・半田淳子・広瀬友紀
[国語の授業づくり]田崎公理
[ことばのことばかり]はんざわかんいち
[校閲記者のこの一語]渡辺美樹
[新刊クローズアップ]笹原宏之・沖裕子