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世界各地で森とともに生きる人々は、森林に関する広い知識や、それらを利用する技術・技能を集団内に蓄え、世代を越えて伝えてきた。また、森との関わりのなかで、人々は独自の信仰体系や世界観を構成し、森林利用に係る規範やしきたりを形成してきた。民俗知と称される、地域の人々がもつこれらの知や森への眼差しは、森林を母体として育まれる「文化」の源泉といえる。
しかし、そのような民俗知のあり方は大きく変わろうとしている。あるところでは、国家や国際社会の思惑に翻弄され、またあるところでは、地域社会内部の変化により自然消滅しようとしている。本巻では、国内外の森林地帯に暮らす人々が保有する民俗知の現在を紹介しつつ、それらが森林保全、林産資源の持続的利用、地域づくりといった社会・環境問題とどのように関わっているのか、あるいは関わりうるのかについて論考することで、現代社会における新たな森と人との関係性のあり方を探っていく。
本巻の学術的特徴として、以下二点を挙げておきたい。第一は、文化人類学や日本民俗学の研究者を執筆陣に加えることで、森林学(林学)と、関連する人文社会科学との隔たりを架橋した点である。第二は、海外と日本国内の事例を民俗知という切り口から統合し、民俗知を通じた森と人との関わりを同時代に生きる人々による共通の問題として考察した点である。民俗知の世界は深く、そして広い。本巻が、そのような豊かな意味世界へと多くの人を誘い、森林と文化について興味を深めることに貢献するよう願っている。