日本語学2020年秋号(特集:日本語能力再考/観光とことば)vol.39-3

宮地裕 監修, 甲斐睦朗 監修

3,410円(税込)

明治書院

◆日本語能力再考
 「日本語能力」と言えば、多くの人は外国人の日本語能力をイメージするだろう。「特定技能」という新たな在留資格が生まれ、今後ますます数多くの外国人材が日本で働くことが予想される中、彼らにどの程度の日本語能力を求めるのか、どのような日本語教育の機会を提供するのかは、目下、日本語教育の世界の重要な課題の一つである。たとえば、文化審議会国語分科会日本語教育小委員会においても、2019年より、「日本語教育の標準」(「日本語教育の参照枠」)に関する検討が行われ、日本語能力をどう段階的に、かつ言語活動ごとに表現するか、審議されている。
 そして、国内外において日本語使用者が拡大し、日本語を介したコミュニケーションの場面やその媒体も多様化が進んでいる。また、企業が新入社員に求めるコミュニケーション能力として取り沙汰されるものの多くは、単に「日本語能力」と置き換えてもいいものである。もはや、「日本語能力」を意識したり評価したりする対象は、日本語学習者や日本語非母語話者だけでなく、日本語を母語(第1言語)として身に付けたあるいは身に付けていく人も含まれる。また、ことばの能力は、いわゆる言語にのみ起因するのではない。このことは、日本語の使用者の言語・文化的背景が多様化したことによっても明らかとなってきた。
 多くの人が「日本語能力」という言葉を、何気なく、特に定義しないまま使っているわけだが、日本でも海外でも日本語を使用する人が増え、その「日本語能力」をその使用者を評価する上での一つの観点として捉える可能性が今後ますます広がっていくことが予想される今、あらためて「日本語能力」とは何なのかを複数の観点から見直す必要があるのではないか。

◯外国人の日本語コミュニケーション能力 山内博之
―変化の諸相を形態素と文字列でとらえる―

◯日本語学習者の読解能力 野田尚史

◯「日本語上手」から「コミュニケーション上手」へ 迫田久美子

◯企業の求めるビジネスコミュニケーション能力 近藤彩
―外国人と働く環境整備に向けて日本語教育ができること―

◯移住女性のリテラシーから読み解く「日本語能力」とその養成 新矢麻紀子

◯ビジュアル・リテラシーと日本語能力 岡本能里子
―マルチリテラシーズの教育学から考える―

◯子供の言語能力・日本語能力を育てる 三森ゆりか
―言語技術の必要性とその内容―

◆観光とことば
 昨年の訪日外国人数は、3200万人に近づき、オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、外国人観光客に対するサービスは、今後ますます洗練されていくと予想されていた。そのサービスの中には、多言語や「やさしい日本語」による対応、日本文化や地域文化のアイデンティティを表すことばなど、日本語学の対象として、重要で興味深い現象も多い。
 ところが、新型コロナウイルス感染拡大によって、外国人の入国がほぼゼロの期間が長く続き、国内旅行も大幅に制限され、人の移動が遮断される事態になってしまった。そして、感染拡大が収束しても、以前のような観光客が、そのまま戻ってくるわけではないかもしれない、ということも言われ始めている。観光業に携わっている人々も、観光を楽しんできた人々も、何のために、どんな活動を行うのが観光なのかについて、省察を深めているのである。
 本特集では、観光とことばをめぐる諸現象を整理し、その研究課題について考える。

◯日本の観光スタイルの変化と言語管理 山川和彦

◯インバウンドと「観光のためのやさしい日本語」 加藤好崇

◯観光資源としてのことば 斎藤敬太
    ―日本国内の活用事例を中心に―

【連載】

[甲斐睦朗エッセイ]………甲斐睦朗
[ことばのことばかり]………はんざわかんいち
[校閲記者のこの一語]………仙波栄二
[国語の授業づくり]………大元理絵