日本語学2020年夏号(特集:コーパスによる語史と現代語誌 他)vol.39-2

宮地裕 監修, 甲斐睦朗 監修

3,410円(税込)

明治書院

◆コーパスによる語史と現代語誌
 日本語学の諸領域にコーパスが導入され、大きな成果をあげてきている。コーパスが整備されることで、進展が期待される領域に、「語史・語誌」の領域があろう。その基礎作業となる、用例収集と用例分析の多くがコーパスによって行われるようになってきているからである。「語史・語誌」とは、「ある語、および、それと関連する通時的展開ならびに共時的な様相を記述したもの」(日本語学会編『日本語学大辞典』、小野正弘氏執筆)で、語彙史研究、語彙研究、辞書編集の基盤となるものである。本特集では、『日本語歴史コーパス』を用いた古典から近代までの「語史」、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』をはじめとした現代語コーパスを用いた現代語の「語誌」について、一般読者にも興味深い語を取り上げて、その記述例を示す。

[解説]
○歴史コーパスによる語史研究 田中牧郎

[語史]
○始める(始まる・初める・初め・初めて) 高山善行

○欲しい 北﨑勇帆

○着る(脱ぐ・解く) 松崎安子

○こころよい・ここちよい 池上尚

○~のために(~によって)…られる 田中草大

○~〔の〕通り 村山実和子

○かわいい・いとしい 片山久留美

○経済(不経済・経済的) 橋本行洋

○自分(私・余・吾人) 近藤明日子

○内外(前後) 山際彰

○与党(野党) 永澤済

○気象・気性 間淵洋子

○頼む(恃む) 髙橋雄太

○クレーム(苦情・文句) 金愛蘭

[解説]
○コーパスによる現代の語誌研究 柏野和佳子
―『日本語日常会話コーパス』を活用した国語辞典の改訂―

[現代語誌]
○すてき・すばらしい 加藤恵梨

○起きる・起こる(生じる・生ずる) 井上次夫

○甘い 丸山岳彦

○非―(不―・未―・無―) 小椋秀樹

○ある・もっている 中山健一

○御の字 佐々木文彦

○二三日 小野正樹

○裏(表・陰) 野田大志

[解説]
○語誌情報ポータルについて 山崎誠

◆「ことば」の教師のコミュニケーション能力
 近年、日本語教育の世界では、日本語教師に求められる資質・能力の見直しがはかられ、養成・研修プログラムの充実が進んでいます。たとえば、2019年に文化審議会国語分科会によって発表された「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告) 改定版」では、日本語教育人材に共通して求められる基本的な資質・能力の一つとして「(3)コミュニケーションを通じてコミュニケーションを学ぶという日本語教育の特性を理解していること」が挙げられています。しかし、本報告書が示す日本語教師養成課程における具体的な教育内容には、「コミュニケーション」に注目した事柄として、コミュニケーション能力に関する知識を身に付けることと、日本語教育を実践する上で必要となるコミュニケーション能力を向上させることが掲げられているものの、後者、つまり、教師自身が授業を実践する上で必要なコミュニケーション能力が具体的にどういったものなのかは明確に示されておらず、異文化コミュニケーション能力の範囲にとどまっているように見受けられます。
 日本語、英語、国語はいずれも「コミュニケーション能力」を学習者に身に付けさせることが目的の一つであり、学習内容となります。同時に、教師がいかに学習者とコミュニケーションをするのか、学習者とのやりとりを通じて、いかにコミュニケーションに対する意識を高めていくのか、ということも、学習者のコミュニケーション能力の育成に大きな影響を与えます。この共通認識の下、それぞれのお立場から、ことばを扱う教師に必要なコミュニケーション能力について、お考えをお書きいただければと思います。

○「ことば」の教師に必要なコミュニケーション能力とは何か 横溝紳一郎

○「日本語」授業における教師のコミュニケーションの課題 文野峯子

○「国語」授業における教師のコミュニケーションの課題 森篤嗣

【連載】

[甲斐睦朗エッセイ]………甲斐睦朗
[ことばのことばかり]………はんざわかんいち
[校閲記者のこの一語]………若井田義高
[国語の授業づくり]………山内裕介