レジームシフトと水産資源管理 水産学シリーズ147

青木一郎 編著, 二平章 編著, 谷津明彦 編著

3,960円(税込)

株式会社恒星社厚生閣

レジームシフトをふまえた新しい資源管理 / 水産資源の変動が気候・海洋の長期変動に起因していることがわかってきた。本書ではこの新しい概念であるレジームシフトをふまえた新しい資源管理方策と漁業のあり方を探る。



はじめに
 マイワシ属魚類における地球規模の同調した資源変動の発見を契機として,ここ10年程の間に,世界の海における様々な水産資源が気候・海洋の長期変動に基因して大きく変動することがわかってきた.10年~数十年の時間スケールで生じる地球規模での気候-海洋-海洋生態系の状態遷移はレジームシフトと呼ばれ,その概念は資源変動様式の共通認識として新たな一面を加えることになった.それは,第1に,水産資源は環境レジームに対応して数十年の周期で高水準期と低水準期を繰り返す,変動する非定常系であること,第2に,環境レジームに対応して卓越魚種が交替すること,である.しかし,気候変動から資源変動あるいは魚種交替に至るメカニズムについては,残された解明すべき課題となっている.一方,より現実的な問題として,レジームシフトに基づく資源変動の認識に立った新しい資源管理方策と漁業のあり方が求められている.たとえば,環境要因によって変動する資源をどうコントロールすべきか,交替する資源をどう利用すべきか,そしてこれらに適合する漁業の何か新しい形はあるのか,が論点としてあげられる.
 レジームシフトに伴って変動する資源は主に沖合漁業の対象種としても代表され,わが国漁業の重要な位置を占める.水産資源の持続的有効利用を通じて漁業の発展と人類の食料資源の安定的確保を図るためには,このような長期的変動に対応した柔軟で効果的な資源管理システムの開発が急務である.  そこで,2005年4月4日に,東京海洋大学で開催された日本水産学会大会において,シンポジウム「レジームシフトと水産資源管理」を下記の内容で行った.このシンポジウムでは,(1)水産資源の長期的変動現象の特徴を把握・整理したうえで,(2)その変動に対応しうる管理手法やモデルを提案し,(3)漁業形態や漁業経営,管理制度の側面から現実の資源管理への適用可能性を論議することで,今後とるべき望ましい管理システムのあり方を探ることを目的とした.  本書は,当日の講演内容に質疑応答の趣旨を考慮して執筆し,編集したものである.今後の水産資源管理のあり方の論議や資源の持続的利用の進展に寄与できれば幸いである.
以下省略