マアジの産卵と加入機構 東シナ海から日本沿岸へ―水産学シリーズ139

原一郎 編, 東海正 編, 西田宏 著

3,960円(税込)

株式会社恒星社厚生閣

資源管理のカギである産卵場形成などを解明 / 浮魚資源の減少が危惧される今日、資源管理が重要な課題となっている。本書はマアジを中心とし、資源量動態に密接にかかわる産卵場形成機構、幼稚仔魚の二大海流への取り込み、海流による輸送機構の解明、生育過程における生存要因を解明するとともに、海流の立体的な動態を把握し、資源量予測のキーを提示。資源管理のキーである産卵場形成などを解明



はじめに
 近年浮魚資源の減少が危惧されている中で,マアジ資源の動向が注目されている.1997 年に我が国で開始された TAC(漁獲可能量)制度は,ABC(生物学的許容漁獲量)に社会・経済的要因を加味して決められた TAC に基づいて資源を管理するもので,マアジも TAC 制度に基づく管理の対象種のひとつである.従来は,推定された ABCを 大幅に上回った TAC が設定されることもみられたが,最近では TAC が ABC に近づきつつあることからも,科学的根拠に基づく ABC の算定にはより高い精度が要求されている.一方,我が国で漁獲されるマアジの主体は若齢魚であり,この若齢魚は主な産卵生育場である東シナ海から黒潮,対馬両海流によって太平洋および日本海沿岸に分配,輸送された幼稚仔が加入したものと考えられる.しかし,現在では ABC の算定は太平洋系群と対馬暖流系群に分けて,それぞれ資源量推定はコホート解析によって年級ごとに行われていることから,加入が完了していない最近年について若齢魚の資源量推定値の誤差は大きいものとなっている.したがって ABC 算定の精度向上のためには,こうした産卵場からの幼稚仔の加入量予測が不可欠である.  加入量予測を可能にするために,2000 年度から農林水産技術会議のプロジェクト「産卵場形成と幼稚仔魚の輸送環境の変化が加入量変動に及ぼす影響の解明(Researches on the Fluctuation of Recruitment of Fish Eggs and Larvae by Changes of Spawning Grounds and Transport Pattern in the East China Sea)」(キーワードをとって Fluctuation Recruitment East China Sea から略称 FRECS と呼ばれる)がスタートした.このプロジェクトでは,マアジを中心として資源量動態に密接に関わる産卵場形成機構,幼稚仔魚の二大海流への取り込み,これら海流による輸送機構と沿岸域への移動機構,および成育過程における生存要因を解明するとともに,浮魚の移動において重要な要因である海流の立体的な動態を把握し,それらを表現できうるシステムを開発し,さらにこれらの知見に資源動態の数理モデルを加えて,日本海および太平洋への幼稚魚流入量を予測することを目的としている.
 このプロジェクトの研究成果を取り入れながら,マアジの産卵場形成と沿岸加入に関わる海洋環境に関する研究について,現状と問題点を整理し,今後の研究の展開を図るために,平成15 年度日本水産学会大会時の 2003年 4 月 5 日に東京水産大学で開催されたシンポジウム「東シナ海におけるマアジの産卵場形成と沿岸への加入機構」を下記の内容で行った.
 本書は,当日の講演内容に質疑応答の趣旨を考慮して,さらに最新の研究成果を加えて執筆し,編集したものである.今後のマアジの資源生態の研究,特に ABC 算定や資源管理の発展に寄与できれば幸いである.